株式投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットは、株価が割安か割高かどうかを判断するためにどのようにしているのだろうか?
「億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術」の本で、将来の株主資本(BPS)を予想して現在の株価が割安か割高かを判断する方法が載っていたので紹介したい。その方法とは、以下の通りだ。
①過去の平均BPS成長率を算出する
②①で求めた平均BPS成長率から将来のBPSを算出する
③②で求めた将来のBPSを現在の価値に割り引く
この方法で、現在の株価が割安か割高かどうかの目途をつけることが出来る。株式投資に臨むうえでは、知っておいて損はないものだと僕は思っている。
計算方法の詳細
上記で、現在の株価が割安か割高かを判断する方法をした。ここでは、その方法の詳細を「東映アニメーション(4816)」を例にして説明したい。
①過去の平均BPS成長率を算出する
この方法は「東映アニメーション」の10年前と現在のBPSを使用することで算出することが出来る。
・10年前(2012年03月期決算)のBPS:810.3円
・現在(2021年03月期決算)のBPS:2,081.2円
算出してきた現在のBPS:2,081.2円を、10年前のBPS:810.3円で割り、その数値に累乗根(この場合は10年なので10乗根となる)を計算して、そこから1を差し引く。
実際の計算式としては「(2,081.2/810.3)^(1/10)-1」となり、結果として平均BPS成長率は「0.0989」となる。
①で求めた平均BPS成長率から将来のBPSを算出する
この方法は「東映アニメーション」の現在のBPSと、①で求めた平均BPS成長率から算出することが出来る。
・現在(2021年03月期決算)のBPS:2,081.2円
・平均BPS成長率:0.0989%
10年後のBPSを算出する計算式としては「(1+0.0989)^10*2,081.2」となり、結果として10年後のBPSは「5,345.4」となる。
②で求めた将来のBPSを現在の価値に割り引く
この方法は、上記で求めた「東映アニメーション」の10年後のBPSを使用する。
・10年後のBPS:5,345.4円
この10年後のBPSを、投資で求める収益率を割引率として計算する。バフェットは投資に対して収益率は最低でも15%は求めるべきだと述べているので、収益率を15%で求めてみたい。
実際の計算式としては、「5,345.4/(1+0.15)^10」となり、結果として「1321.3」となる。
結果として、現時点で「東映アニメーション」に投資して15%の収益率を得るには、株価:1321.3円で購入すべきだと判断することが出来る。ちなみに、1/24時点の「東映アニメーション」の株価は8,220円となり、バフェットの計算式からするとかなりの割高と判断することが出来る。
日本電技(1723)
僕の持ち株でビル空調計装工事の大手会社である「日本電技(1723)」がある。この「日本電技」は2008年ごろから数年間かけてコツコツ株を購入した銘柄だ。平均取得単価は627円で、現時点(2022/1/24)で約6倍上の評価益を叩き出している。
この「日本電技」について、将来の株主資本(BPS)を予想して現在の株価が割安か割高かを含めて分析してみた。結果として年15%の収益率を目指すのであれば、今の株価は割高だと判断することが出来た。
株価指標とチャート
「日本電技」の現時点の株価は4,035円で、PER(予):11.4倍、PBR(実):1.2倍、ROE(実):13.15%、配当利回り(予):2.63%となっている。
また「日本電技」は建設業に分類されており、建設業全体の市場平均のPERは17.02倍となっている。「日本電技」の現時点のPER(予):11.4倍となっており、建設業全体の市場平均と比較してまずまずの割安感が伺える状態となっている。
業績の状況
「日本電技」の売上について、この10年間はほぼ右肩上がりで、年平均で約4.6%の成長率を誇っている。だが会社予想によると、今期の売上は約6.1%の減収となる見込みである。
当期利益についても、この10年間はほぼ右肩上がりで、年平均で約15.3%の成長率を誇っている。だが会社予想では、売上同様に今期の当期利益は約14.9%の減益となる見込みである。
当期利益の利益率について、過去10年の平均利益率は約6.7%となっている。この数値は、同じ空調設備工事を扱う「高砂熱学工業」「大気社」と比較するとかなり良い数値となっている。
キャッシュフローについては、ここ10年でフリーキャッシュフローがマイナスの年が2回だけであり、キャッシュフロー的には安定感が伺える状態である。
配当については、ここ10年は右肩上がりの状態である。だが、今期の配当については1株:125円→106円と19円の増配となる見込みである。
利益の質
利益の質であるアクルーアル(税引き後利益-営業キャッシュフロー)の状況は、以下の通りである。
※
アクルーアルは税引き後当期純利益(※特別損益を除いた税引き後の利益)を用いるが、確認するのに少し手間なので「日本電技」の決算書に載っている『親会社の所有者に帰属する当期利益』の数値をそのまま使っている。
- 2019/03月決算 当期利益:2,232百万円 営業CF:2,989百万円
→アクルーアル:△757百万円 - 2020/03月決算 当期利益:3,184百万円 営業CF:4,164百万円
→アクルーアル:△980百万円 - 2021/03月決算 当期利益:3,324百万円 営業CF:4,096百万円
→アクルーアル:△772百万円
アクルーアルはマイナスとなっており、「日本電技」は現金収入を伴った質の高い利益を生み出している企業と言える。
現時点の株価分析
「日本電技」の10年後の予想BPS(1株当たり純資産)を算出し期待収益率:年15%と設定した場合に、現時点の株価がどういう状況なのかを確認してみた。
- BPS成長率:年7.6%
過去10年から算出した平均BPS成長率 - 10年後の予想BPS:6,974.8円
前期のBPS:3,328.9円と上記のBPS成長率より算出 - 現時点の予想株価:1,724円
年15%の収益率で算出(※割引率が年15%)
「日本電技」の現時点の株価は4,035円で、年15%の収益率を目指した場合の現時点の株価は1,724円が妥当だと判断できる。なので、年15%の収益率を目指すのであれば現時点の株価は割高だと判断することが出来る。
黄金銘柄の特徴チェック
世界でも有名なフィナンシャル分野の教授であるジェレミー・シーゲル博士は、市場平均をつねに上回りつづける銘柄を黄金銘柄と名付けおり、黄金銘柄には3つの特徴があると述べている。
「日本電技」が、この黄金銘柄の3つの特徴に当て嵌まるのか確認してみたところ、ぴったりと条件に当て嵌まるとは言い難い状況であった。
- PERが市場平均をわずかに上回る程度
→「×」、日経平均のPERは18.39倍となっており、「日本電技」のPER(予):11.4倍となっている。 - 配当利回りが市場平均並み
→「△」、日経平均の平均配当利回りは1.75%となっており、「日本電技」の配当利回り(予):2.63%となっている。 - 長期的な増益率が市場平均を大幅に上回っている
→「?」、日経平均の増益率を調べてみたが分からなかった。だが「日本電技」の過去10年の経常利益は年12.8%で、当期利益は年15.3%の成長率を誇っている。市場平均は不明だが、かなり良い数値ではないかと個人的には思っている。
また、シーゲル博士は黄金銘柄の特徴として「看板商品にしがみつき、かたくなに品質を守って、市場を海外に広げる方針を貫いている」もあると述べている。現段階で「日本電技」は、海外に支社を持っていない。そして何が看板商品なのか僕には判断できない状態である。
以上のことから、僕は「日本電技」はシーゲル博士が言う黄金銘柄に当て嵌まらないと思っている。
「消費者独占型」企業を見分ける8つの基準チェック
バフェットは、「消費者独占型」企業を見分けることができる8つの基準があると述べている。
「日本電技」が、この「消費者独占型」企業を見分けるためには8つの基準に当て嵌まるのか確認してみたところ、8つの基準にある程度合致することが確認出来た。
- 消費者独占力を持つと思われる製品・サービスがあるか
→「?」、「日本電技」が消費者独占力を持つと思われる製品・サービスがあるのか判断することが僕に出来なかった。 - 1株当たり利益(EPS)が力強い増加基調にあるか
→「○」、過去10年の1株当たり利益(EPS)は、年平均約15.8%で成長している。 - 多額の負債を抱えていないか
→「○」、「日本電技」の前期の当期利益は3,324百万であった。そして、固定負債は1,023百万円である。「日本電技」の長期負債は、1年分以下の利益で十分に返済できるレベルである。 - 株主資本利益率(ROE)は十分に高いか
→「△」、過去5年の株主資本利益率(ROE)は10~14%であり、まずまずのレベルである。 - 現状を維持するために、内部留保利益の大きな割合を再投資する必要があるか
→「×」、「日本電技」の過去5年の設備投資・研究開発費を見ると、売上に対してほんのわずかな額の割合となっている。このことから「日本電技」は、追加加投資をそれほど必要とぜずとも持分価値そのものが増え続けるタイプの企業と言える。 - 内部留保利益を新規事業や自社株買戻しに自由に使えるか
→「○」、「日本電技」の業績を見ていると、内部留保利益を新規事業や自社株買戻しに自由に使えると考えられる。 - インフレを価格に転嫁できるか
→「?」、「日本電技」はインフレを価格に転嫁できる企業かどうか判断することが僕に出来なかった。 - 内部留保利益の再投資による利益が、株価上昇につながっているか
→「△」、ここ3年の株主資本利益率(ROE)を見ていると、内部留保利益の再投資はまずまず成功していると言える。
「消費者独占型」企業の4つのタイプチェック
バフェットは、「消費者独占型」企業には以下の4つのタイプに分けられると述べている。
1.長期使用や保存が難しく、強いブランド力を持ち、販売業者が扱わざるをえないような製品を作る事業
「億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術」より引用
2.他の企業が事業を続けていくために、持続的に使用せざるをえないコミュニケーション関連事業
3.企業や個人が日常的に使用し続けざるをえないサービスを提供する事業
4.宝石・装飾品や家具などの分野で、事実上地域独占力を持っている小売事業
「日本電技」は、ビル完成後に空調メンテナンス請負作業等を行っている。なので「企業や個人が日常的に使用し続けざるをえないサービスを提供する事業」に該当する可能性は高いと考えている。
まとめ
「日本電技」について過去10年の業績から判断した場合、まずまず良い企業である。
だが将来の株主資本(BPS)を予想して現在の株価が割安か割高か判断した場合、年15%の収益率を目指すのであれば現時点の株価は割高となってしまう。今の株価であれば、ぜいぜい年5%の収益率が妥当となってしまう。
年5%の収益率を狙って株に投資するのは良い判断とは言えないので、現時点の「日本電技」の株は買いと言えないと思っている。
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