前回の記事で「株式投資をしてはいけない、「孫子」を読んで滅んでいく企業を見抜こう」という記事二千五百年前に書かれた中国の兵書に「孫子」というものがある。この「孫子」の戦略の根底は、「常に勝てる戦略」でなく「負けない戦略」である。
二千五百年前の中国ではライバルが複数ひしめいていた。こうした状況では、生き残るために「戦って勝つ」ということよりも「負けない」ということがとても重要と考えられ、この戦略が生まれたと言う。
現代の社会を見てみると、どの業界を見ても飛び抜けた存在がいなく同じような力を持った複数の会社がライバルとしてひしめいている状況となっており、二千五百年前の中国の状況に似ていると所がある。
こうした現代社会では、「孫子」の『常に勝てる戦略』でなく『負けない戦略』が有効なのかも知れない。
だが、中にはライバルに対して勇猛果敢に挑戦し敗れ去っていく企業も少なくはない。最近では、「大塚家具」が勇猛果敢に挑戦し敗れ去っていった企業として挙げられる。
結果として「大塚家具」の挑戦は、全盛期からの凋落振りを考慮すると失敗したと言わざるを得ない。だが、なぜあそこまで失敗したのだろうか?
今回は「孫子」の考えをもとに、「大塚家具」の挑戦について考えてみたい。
大塚家具が凋落した理由
大塚家具が凋落していった理由は、以下の2つが大きな原因だと僕は考えている。
- カジュアルな路線への切り替えを目立つ形で行った
- 出口戦略がなかった
目立つ形でのカジュアル化
大塚家具はお家騒動の結果、久美子社長が復帰。そして、今までの高級路線ではなく「(一人でも)入りやすく、見やすい、気楽に入れる店作り」とするカジュアルな店舗に路線を切り替えると大々的に発表して行った。
時系列を追ってみると久美子氏は、お家騒動の前にも高級路線であった大塚家具のいくつかの店をカジュアル店舗に切り替えて、入店者数を増加に転じさせるなど業績改善に貢献していた。
お家騒動の前には、カジュアルな店舗路線の切り替えは一定の効果をもたらした言える。
僕自身は、カジュアルな店舗路線の切り替えは人知れず隠密的に行えば成功する確率は高かったのではないかと考えている。「あの高級な大塚家具が、割安な値段で買える」と考える客層も少なからずいたであろう。
だが、お家騒動の時にカジュアルな店舗へ路線を切り替えると大々的に発表して行ったため、そのことがカジュアルな店舗の代表格であるIKEAやニトリとの争いと受け取られるようになってしまった。
大きな力を持ったIKEAやニトリという企業と、このカジュアル的な家具の業界では小さく新参者の位置づけの大塚家具が真正面でぶつかる構図となってしまい、負けるべくして負けるという戦いに引きずり込まれる形となってしまった。
「孫子」では、戦闘前の準備の大切さを説いており、「あらかじめ勝利する体制を整えてから戦うものが勝利を収め、戦いを始めてからあわてて勝利を掴もうとする物は敗北に追いやられる」としている。
また「戦争とは、所詮、騙し合いにすぎない」として、相手を騙して自分を弱く見せ、敵の判断を狂わせて戦うべきだと説いている。
大塚家具が、カジュアルな店舗路線に切り替えて戦うというのならば、遠からずIKEAやニトリと戦う必要がある。
IKEAやニトリの勢いが衰えた状態で戦うのならまだしも、勢いが衰えていないIKEAやニトリに対してこの業界で力の弱い大塚家具が真正面からぶつかる構図は避けるべきである。
そのためには、高級路線を維持していると見せかけて、実はカジュアルな店舗に徐々に移行していくような、真正面からぶつからない戦略を取るべきだったのではないかと僕は考える。
出口戦略を持たなかった
企業として、時には勝ち目が薄くても、そして準備不足でも戦いを挑まなければならない場面があるのかもしれない。だが、そんな時でも出口戦略は用意しておくべきだろう。
争いというのは、一度始めてしまうと引くことが出来ず泥沼化してしまうことが多い。その最たる例は、アメリカのベトナム戦争だろう。
「孫子」の教えでは、戦う前に本当に勝算があるのかよくよく考えろと言っている。なぜなら、一度戦いを始めてしまうと、やり直しやリスタートは許されないからだ。
また、それでも争いを行うなら「短期間で決着」がつくようにすべきだと説いている。
大塚家具の場合、そもそも勝算が薄い状況で戦いに臨んだのが間違いだが、カジュアルな店舗への路線変更が引くに引けない状況まで追いやられて、泥沼化してしまったことも大きな問題であると僕は考える。
短期間で決着の見込みが立たないのであれば、泥沼化する前に引く戦略も用意すべきであった。
だが、言葉にすれば簡単なのだが、実際に争いを辞める決断は難しいだろう。
「あれだけの犠牲を払ったのだから少しは取り戻さないといけない、敵ばかりに美味しい思いさせるならもっと戦いを続けた方がましだ」といった感情も生まれるし、不利な状況になればなるほど「悪化していく事態の中で、時間が選択の余裕を与えてくれない」だろう。
だからこそ、「孫子」は戦う前に本当に勝算があるのかよくよく考えろと言っている。
大塚家具の騒動について
「孫子」を読んで大塚家具の騒動を考えてみたときに、そもそも大塚家具を安く買収したい人や、ニトリやIKEAが大幅に占める家具業界に入り込みたい第三者的な勢力があったのではないかと疑ってしまう。
「孫子」では「将軍と君主の関係が親密であれば、国は必ず強大となる。逆に、両社の関係に親密さを欠けば、国は弱体化する」とある。
大塚家具を安く買収したいと考えている第三者が、お家騒動を巻き起こし社長・役員・社員といった組織間の繋がりを崩壊させ弱体化させる。そして、弱体化した大塚家具を乗っ取るのだ。
また漁夫の利を得るということで、大塚家具とIKEA・ニトリをぶつけて疲弊させ、その隙に新たなカジュアル家具店を出店しシェアを広げようとしたのではないだろうか。
「孫子」を読むと「いかに争わずして勝とうとするのか?」「そのために、どうような情報戦を行うべきなのか?」など、いろいろ考えさせてくれる。
果敢に挑戦する企業への投資はリスクがある
「大塚家具」から学べたことは、「特に自分の力を過信したり、正しく評価できていない状況で、大きな敵に対して真正面から戦いを挑む企業は滅んでいく可能性が高い」ということだ。
時には無謀な挑戦が身を結び良い結果を得ることはあるかも知れない。だが、無謀な挑戦を挑み続ける会社はいつか滅びるだろう。こうした会社に投資することは、当たり前だが極力避けるべきである。
色々好きなことを述べてきたが「大塚家具」は、「ヤマダホールディングス」の子会社として生き延びることが出来た。そういう意味では、最後の最後で「負けない戦略」が生きてきたのかも知れない。
また「大塚家具」の株主は株式交換で、「ヤマダホールディングス」の株を手にすることが出来る。今後「ヤマダホールディングス」の株価が伸びれば、「大塚家具」の株主は報われる可能性もある。
「大塚家具」の挑戦に対して、株式投資家として判断を下すのはもう少し先を見てからでも遅くないのかも知れない。
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