前回の記事で「株式投資をしてはいけない、「孫子」を読んで滅んでいく企業を見抜こう」という記事を書いた。
その記事で、なぜ大塚家具があそこまで凋落したのか?「孫子」の考えをもとに考察したいと書いたので、今日はその内容を書いてみたい。
大塚家具が凋落した理由
大塚家具が凋落していった理由は、以下の2つが大きな原因だと僕は考えている。
- カジュアルな路線への切り替えを目立つ形で行った
- 出口戦略がなかった
目立つ形でのカジュアル化
大塚家具はお家騒動の結果、久美子社長が復帰。そして、今までの高級路線ではなく「(一人でも)入りやすく、見やすい、気楽に入れる店作り」とするカジュアルな店舗に路線を切り替えると大々的に発表して行った。
時系列を追ってみると久美子氏は、お家騒動の前にも高級路線であった大塚家具のいくつかの店をカジュアル店舗に切り替えて、入店者数を増加に転じさせるなど業績改善に貢献していた。
お家騒動の前には、カジュアルな店舗路線の切り替えは一定の効果をもたらした言える。
僕自身は、カジュアルな店舗路線の切り替えは人知れず隠密的に行えば成功する確率は高かったのではないかと考えている。「あの高級な大塚家具が、割安な値段で買える」と考える客層も少なからずいたであろう。
だが、お家騒動の時にカジュアルな店舗へ路線を切り替えると大々的に発表して行ったため、そのことがカジュアルな店舗の代表格であるIKEAやニトリとの争いと受け取られるようになってしまった。
大きな力を持ったIKEAやニトリという企業と、このカジュアル的な家具の業界では小さく新参者の位置づけの大塚家具が真正面でぶつかる構図となってしまい、負けるべくして負けるという戦いに引きずり込まれる形となってしまった。
「孫子」では、戦闘前の準備の大切さを説いており、「あらかじめ勝利する体制を整えてから戦うものが勝利を収め、戦いを始めてからあわてて勝利を掴もうとする物は敗北に追いやられる」としている。
また「戦争とは、所詮、騙し合いにすぎない」として、相手を騙して自分を弱く見せ、敵の判断を狂わせて戦うべきだと説いている。
大塚家具が、カジュアルな店舗路線に切り替えて戦うというのならば、遠からずIKEAやニトリと戦う必要がある。
IKEAやニトリの勢いが衰えた状態で戦うのならまだしも、勢いが衰えていないIKEAやニトリに対してこの業界で力の弱い大塚家具が真正面からぶつかる構図は避けるべきである。
そのためには、高級路線を維持していると見せかけて、実はカジュアルな店舗に徐々に移行していくような、真正面からぶつからない戦略を取るべきだったのではないかと僕は考える。
出口戦略を持たなかった
企業として、時には勝ち目が薄くても、そして準備不足でも戦いを挑まなければならない場面があるのかもしれない。だが、そんな時でも出口戦略は用意しておくべきだろう。
争いというのは、一度始めてしまうと引くことが出来ず泥沼化してしまうことが多い。その最たる例は、アメリカのベトナム戦争だろう。
「孫子」の教えでは、戦う前に本当に勝算があるのかよくよく考えろと言っている。なぜなら、一度戦いを始めてしまうと、やり直しやリスタートは許されないからだ。
また、それでも争いを行うなら「短期間で決着」がつくようにすべきだと説いている。
大塚家具の場合、そもそも勝算が薄い状況で戦いに臨んだのが間違いだが、カジュアルな店舗への路線変更が引くに引けない状況まで追いやられて、泥沼化してしまったことも大きな問題であると僕は考える。
短期間で決着の見込みが立たないのであれば、泥沼化する前に引く戦略も用意すべきであった。
だが、言葉にすれば簡単なのだが、実際に争いを辞める決断は難しいだろう。
「あれだけの犠牲を払ったのだから少しは取り戻さないといけない、敵ばかりに美味しい思いさせるならもっと戦いを続けた方がましだ」といった感情も生まれるし、不利な状況になればなるほど「悪化していく事態の中で、時間が選択の余裕を与えてくれない」だろう。
だからこそ、「孫子」は戦う前に本当に勝算があるのかよくよく考えろと言っている。
大塚家具の騒動について
「孫子」を読んで大塚家具の騒動を考えてみたときに、そもそも大塚家具を安く買収したい人や、ニトリやIKEAが大幅に占める家具業界に入り込みたい第三者的な勢力があったのではないかと疑ってしまう。
「孫子」では「将軍と君主の関係が親密であれば、国は必ず強大となる。逆に、両社の関係に親密さを欠けば、国は弱体化する」とある。
大塚家具を安く買収したいと考えている第三者が、お家騒動を巻き起こし社長・役員・社員といった組織間の繋がりを崩壊させ弱体化させる。そして、弱体化した大塚家具を乗っ取るのだ。
また漁夫の利を得るということで、大塚家具とIKEA・ニトリをぶつけて疲弊させ、その隙に新たなカジュアル家具店を出店しシェアを広げようとしたのではないだろうか。
「孫子」を読むと「いかに争わずして勝とうとするのか?」「そのために、どうような情報戦を行うべきなのか?」など、いろいろ考えさせてくれる。
滅んでいく企業に投資しない
何はともあれ、滅んでいく企業に投資すべきでない。滅んでいく企業とは、生き残ることを重視した「負けない戦略」を選ぶ企業より、常に「争って勝つ」という戦略を選ぶ会社だ。
特に自分の力を過信したり、正しく評価できていない状況で、大きな敵に対して真正面から戦いを挑む企業は滅んでいく可能性が高い。
それよりも、「負けない戦略」を重視した企業に投資すべきだ。
また、そうした企業も新たな争いに挑むときがあるかも知れない。その時は、その争いに対して「入念な準備が出来ているのか?」「勝算は高いのか?」「争いが泥沼化しないのか?」を判断して株式投資の判断材料とするべきだ。
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